名古屋地方裁判所 平成元年(わ)342号 判決 1990年1月17日
本店の所在地
名古屋市昭和区曙町二丁目八番地
有限会社西幸商事
右代表者取締役
寺西直美
本籍
名古屋市昭和区曙町二丁目八番地
住居
同所
会社役員
寺西直美
昭和一四年四月八日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官髙畠久尚出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人有限会社西幸商事を罰金一億三〇〇〇万円に、被告人寺西直美を懲役一年八月にそれぞれ処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人有限会社西幸商事(以下被告会社という)は、名古屋市昭和区曙町二丁目八番地に本店を置き、不動産売買仲介業を営むもの、被告人寺西直美は、被告会社の取締役として、その業務全般を統括していた夫の亡寺西敏が昭和六二年一月死亡した後被告会社の取締役に就任し、その業務全般を統括しているものであるが、被告人寺西直美は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空支払手数料を計上するなどの方法により、所得の一部を秘匿した上、昭和六一年八月一日から同六二年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一一億二六五三万三七一三円、課税土地譲渡利益金額が一八億四六〇六万八〇〇〇円であり、これに対する法人税額が八億三九八七万四四〇〇円であるのに、同六二年九月三〇日、名古屋市瑞穂区瑞穂町字西藤塚一番地の四所在の昭和税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一億一四九九万九〇六三円、課税土地譲渡利益金額が五億六二六九万七〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一億五八三五万五九〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、被告会社の右事業年度における正規の法人税額との差額六億八一五一万八五〇〇円を免れ、もって、不正の行為により法人税を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人寺西直美の当公判廷における供述
一 証拠等関係カード(検察官請求分)甲1乃至55及び乙1乃至9、11乃至13の各証拠
(法令の適用)
判示事実 法人税法一五九条
被告会社につき 同法一五九条、一六四条
刑種の選択(被告人寺西直美) 懲役刑
(量刑の事情)
本件は、被告会社による国鉄名古屋駅付近の土地の売買にからんで、被告会社の経営者であった亡寺西敏及び同人死亡後被告会社におけるその地位を承継した妻の被告人寺西直美が、右土地の転売利益を秘匿してこれに対する法人税の賦課を免れることにより資産の増殖を図ったもので、昭和六一年八月一日から同六二年七月三一日までの一か年度分のみでほ脱額は六億八一五一万八五〇〇円の巨額に達し、ほ脱率も八一・一パーセントと高率で、右ほ脱額及びほ脱率のみからみても犯情甚だ重いものであるが、右転売利益の秘匿に当たっては、土地購入について架空支払手数料を計上し、右手数料の支払いが真実であるように装うため、支払い先に振込入金の都度領収書を受け取り、その後相手から小切手で返金を受け、右小切手により架空名義で割引債券を購入して隠し資産を作っていたもので、右隠し資産の運用としての土地の購入に当たっても、被告会社名義を用いることなく、他人名義を使用するなど税務当局の調査を免れるべく巧妙な操作をし、これらに基づいて虚偽過少の法人税の確定申告を行ったものであり、犯行の手段、態様も計画的かつ巧妙で悪質なものといわねばならない。而して、本件ほ脱方法の計画立案は亡寺西敏が行ったもので、その動機は直腸癌に犯された同人が自己の病の不治なるを悟って、残してゆく、先妻との間の三子及び後妻である被告人寺西直美、同被告人との間の長男らの将来を慮り、不正な方法による蓄財を図ったものであるが、同六一年八月右寺西敏の病状が悪化し、床に就くことが多くなった後、同人から右計画を打ち明けられた被告人寺西直美は、これを了解し、右四子のためにも夫に協力し、右計画に従いほ脱工作を進めることを決意し、被告会社の不動産の売買に関与し、前記架空支払手数料の振込入金、小切手による返金の受け取り等も自ら行い、夫の死亡後は被告会社におけるその地位を承継して主体的にほ脱方法を実行し、右計画を完成したもので、亡寺西敏及び被告人寺西直美の右本件犯行の動機についても前記の如き手段、方法による莫大な脱税行為について斟酌すべき余地はなく、被告人寺西直美が右脱税計画の立案者でなく、当初からこれに参画していなかったものではあっても、同被告人は右計画を了解の上これを実行実現した者としてその責任は甚だ重いものといわざるを得ない。
右の点に加え、本件においては、本税のほか付帯税について多額の未納付分が残ったままである点を考慮すると、被告人寺西直美の刑事責任は誠に重大というべきで、同被告人が本件発覚後修正申告をし、本税、付帯税の納付に努力しており、本法廷において自己の行為についての反省の態度を見せていること、また、同被告人に前科がなく、亡夫との間の小学生の長男がいること等同被告人のために有利な或いは憫諒すべき諸事情を極力斟酌しても、なお本件において同被告人につき執行猶予に付するのは相当でなく、主文掲記の量刑は止むを得ないところである。
よって、主文のとおり、判決する。
(裁判官 金田智行)